前回の記事で「モノラルビート」の脳波同調原理について取り上げました。今回は脳波同調がどのように「深い睡眠」を「より長く」するのかについて、詳しく説明いたします。
睡眠周期
1つの睡眠周期(約90分)は、以下の5段階で構成されています1。
睡眠段階1
これは、いわゆる「浅い睡眠」の段階です。目を閉じてはいても、まだ眼球がゆっくりと動いており、脳はシータ波(4〜7Hz)を放出しています。この段階は、全体の睡眠サイクルのうち約2〜5%を占める、ごく短い時間です。
睡眠段階2
引き続き<浅い睡眠>段階ですが、1段階とは脳波の放出パターンが大きく異なり、これは脳科学的に非常に重要です。先ほど説明したシータ波に加えて、紡錘波(12〜14Hz)や、大徐波と紡錘波が組み合わさったケーコンプレックスなど、さまざまな波形が見られます。目の動きも第1段階と比べてほとんどなく、この段階は睡眠全体の約45〜50%を占めます。
睡眠段階3
ここから<深い睡眠>段階です。深い睡眠段階はSWS(Slow-Wave Sleep)とも呼ばれ、デルタ波(0.5〜2Hz)の周波数が他の脳波に比べて特に低いことが特徴です。この段階では眼球の動きは見られず、筋肉も緩み、体が本格的な休息に入ります。睡眠全体のうち、約3〜8%を占めるとされています。
睡眠段階4
同様に<深い睡眠>段階です。ただし、この段階では放出される全脳波の50%以上がデルタ波で観察されます。この段階で私たちの体は元気を回復させ、血圧や脈拍を下げながら記憶を整理し、代謝を促進します。
睡眠段階5
レム睡眠は、睡眠の中でも最も深い休息に近い段階とされます。このときの脳波はベータ波(13〜35Hz)やシータ波(4〜7Hz)が優勢になり、目が素早く動き始めます。呼吸や脈拍は不規則になり、自律神経の働きが活発になるのが特徴です。
深い睡眠
私たちはこのようにして1つの睡眠周期を何度も繰り返しながら眠ります。それぞれの睡眠段階は全て重要ですが、今回の記事では身体的・精神的疲労の回復に大きく関連する「深い睡眠」と「脳波同調」の関係を説明しています。
次の研究2では、バイノーラルビートが誘導する「脳波同調」が1つの睡眠周期内で「深い睡眠」の段階を上昇させたと主張しています。この実験では、3Hzのバイノーラルビート(Binaural Beat)を用いて脳波を同調させた結果、「睡眠段階2」の割合が減少し、「睡眠段階3」が明らかに増加しました。3。
睡眠段階3、つまり深い睡眠の割合が増えたということは、放出されるデルタ波の量が増えたことを意味します。その仕組みはとてもシンプルで、デルタ波の振動数(frequency)が3Hzを含むため、3Hzのバイノーラルビートを聴かせることで脳波が同調し、同じ周波数のデルタ波が誘発されたのです。
先ほども触れたように、私たちの体は深い睡眠の段階で、心身の回復を行います。特にこの段階は、記憶の定着や強化に深く関わっており、深い睡眠を増やすことで、睡眠の質と記憶力の両方を高めることができます。実際の研究でも、睡眠段階3および段階4といった深い睡眠の割合が多いほど、認知記憶能力が向上することが報告されています。昼寝のあとに頭がすっきりする感覚も、この深い睡眠がもたらす効果の一つだといえるでしょう。
「音で深い眠りに導かれるなんて本当?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、バイノーラルビートを聴いた後の感情を統合的に分析した研究では、この刺激を受けた人々は睡眠後に疲労感をほとんど感じず、むしろ活力を取り戻し、すっきりとした気分になったと報告しています。
総合的に見ると、3Hzのバイノーラルビートには、深い睡眠に入るまでの時間を短縮し、その状態をより長く保つ一方で、浅い睡眠の時間を減らす効果があることが分かっています。深い睡眠が増えることで、記憶の定着が促され、脳内で発生するデルタ波の量も増加し、心身の回復に大きく役立つとされています。もちろん、バイノーラルビートが私たちの体にどのような影響を及ぼすのか、まだ解明されていない部分もあります。しかし確かなのは、脳波同調という仕組みを通じて、私たちの脳をやさしく刺激し、より良い睡眠へと導く可能性があるということです。
