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朝のだるさの正体は?睡眠慣性の原因と対処法

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朝は、一日の始まりを心地よく迎える大切な時間です。

とはいえ、なかなか起きられず、一日のスタートがつらく感じることもありますよね。 けれども、実は「あと少しだけ」と二度寝をしても疲れは取れず、かえって気分が重くなったり、やる気が出ないまま時間だけが過ぎてしまうことがあります。 一見どうにもならないように思えますが、実は目覚めをラクにする方法はきちんとあります。「もっと寝ていたい」と感じるのは、脳と体が目覚める準備をするまでの時間、つまり“睡眠慣性”によるものなのです。

この記事では、睡眠慣性の正体や原因、そして朝のぼんやり感をスッキリ解消する方法をご紹介します。

睡眠慣性とは?

朝なかなか起きられない人

睡眠慣性は、多くの人が目覚めたときに経験する一般的な現象です(Burkeら、2015)。ぼんやり感や混乱、認知機能の低下は、15分から60分程度続くことが多く(Hilditchら、2016)、場合によっては数時間続くこともあります。睡眠慣性が起こる正確な理由はまだ解明されていませんが、一部の研究者は、不要な覚醒が起きたときに睡眠を維持するための保護的なメカニズムではないかと考えています(Hilditch & McHill, 2019)。原因がどのようなものであっても、睡眠慣性は朝の集中力や行動力を妨げる大きな要因となります。この状態を乗り越えて、朝からしっかりと活力を取り戻すためには、一定の時間と工夫が求められることがあります。


この睡眠慣性という現象は生理的なものですが、夜勤やシフト勤務、オンコール対応など、不規則な働き方をしている人にとっては、大きな影響を及ぼすことがあります。特に、交代制勤務を行う医療従事者にとっては、睡眠慣性によって認知の覚醒度が大きく低下し(Basnerら、2017)、業務パフォーマンスが落ちることで、自分自身の健康だけでなく患者の安全にも悪影響を及ぼすおそれがあります。こうした問題は人々に広く影響を及ぼしており、少なくとも従業員の16%がシフト勤務に従事していると報告されています(Job Flexibilities and Work Schedules Summary, n.d.)。

睡眠慣性によって反応が遅くなったり、判断が鈍くなったりすると、仕事中の思わぬミスやケガにつながるおそれがあります。

睡眠慣性に関連する医学的な状態

夜勤を終えて朝日が昇るころ、「早く家に帰って休みたい」と思いながら帰路につく人も多いでしょう。ようやく布団に入って一息ついたのに、なぜか頭が冴えて体が休まらない——そんな感覚を覚えたことはありませんか。

この状態は「睡眠慣性」といわれ、強い眠気やだるさが何時間も続くこともあります。

このような状態を、シフトワーク睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群などの病気のせいだと思う人もいるかもしれません。けれども、実は「睡眠慣性」そのものが原因になっている場合もあります。とはいえ、睡眠慣性が関係して起こる可能性のある健康トラブルについて理解しておくことは大切です。たとえば、次のようなものが挙げられます。

特発性過眠症

睡眠慣性を放置すると、特発性過眠症(McFarlaneら、2020)のような障害につながることがあります。この疾患は、十分に眠ったはずでも日中に強い眠気を感じるのが特徴です。運転中や勤務中など、安全に関わる重大なリスクを引き起こす可能性があります。

特発性過眠症の主な兆候

  1. 日中に強い眠気が続く
  2. 心身の不調
  3. 突然襲ってくる強烈な眠気

睡眠酩酊(スリープイントキシケーション)

睡眠酩酊は、睡眠から覚醒への切り替えがうまくいかず、混乱や異常行動が起こる睡眠随伴症(パラソムニア)の一種です。この状態では、頭は完全に目覚めていないのに体は動いてしまい、意識がもうろうとしたまま行動することがあります。症状は数分から1時間ほど続くことが多いですが、人によっては何時間も睡眠慣性が残る場合もあります。

睡眠慣性の症状

眠そうに目覚まし時計に手を伸ばす人

深い眠りから目覚めたときのぼんやりした感覚は、誰もが経験したことがあるかもしれません。しかし、睡眠慣性の症状は何時間も続くことがあります。この現象は、長く眠ったあとや、30分以上の昼寝のあとにも起こることがあります。睡眠慣性の症状は、目が覚めた直後に強く感じられることが多く、頭がぼんやりしたり、体が重く感じたり、判断力や動きの調整がうまくいかなくなることがあります。ただし、時間がたつにつれて体が目覚めに慣れていくため、こうした感覚は自然におさまっていきます。

以下は、睡眠慣性によく見られる代表的な症状です。

  1. ぼんやり感(眠気)
  2. 二度寝したくなる気持ち
  3. 認知機能の低下
  4. 視覚的な注意力の低下
  5. 空間記憶の低下

睡眠慣性の原因

睡眠慣性の仕組みについては、今もなお明確には解明されていません。けれども、その原因を探るために、主に3つの有力な仮説が考えられています。

デルタ波

朝、目が覚めたときに頭がふらついたり、ぼんやりして動けないように感じたことはありませんか。それは、睡眠慣性の影響かもしれません。研究によると、睡眠慣性は脳の後部でデルタ波が増えることと関係しているといわれています。 デルタ波とは、とくにノンレム睡眠(NREM)の段階で多く見られる、ゆっくりとした脳波のことです。睡眠不足や睡眠の質が下がったあとには、このデルタ波が増えやすくなると考えられています。 そのため、ノンレム睡眠の最中に急に目が覚めると、脳の中でデルタ波がまだ減りきらず、結果として睡眠慣性が起こり、強い眠気や混乱が何時間も続くことがあります。

アデノシン

朝、早く起きたいと思っても、なかなかベッドから体が動かない――そんな日もありますよね。頭がぼんやりして、意識が霧の中にいるような感覚。これがまさに「睡眠慣性」と呼ばれる状態です。 このしつこい眠気の原因のひとつと考えられているのが、脳内にある「アデノシン」という分子です。研究が進むにつれて、アデノシンが睡眠と覚醒のバランスを調整するうえで大きな役割を果たしていることがわかってきました。目が覚めたときに、このヌクレオシド化合物(核酸の構成要素)の濃度が高いと、睡眠慣性を引き起こす一因になると考えられています。

血流

脳への血流は、睡眠中のリズムによって変化する、非常に複雑なプロセスです。 研究によると、慢性疲労症候群(CFS)は脳の血流低下と関係している可能性があるといわれています。興味深いことに、CFSの症状は睡眠慣性とよく似ており、「目覚めた直後の脳血流の低下が睡眠慣性を引き起こしているのではないか」という仮説も提唱されています。 この考え方には一定の説得力がありますが、まだ十分な研究は行われていません。 睡眠慣性の仕組みを明らかにすることは、より効果的な治療法を見つけるうえで重要な手がかりになります。今後の研究が進めば、CFSやその他の睡眠関連の不調に悩む人々にとって、大きな支えとなる可能性があります。

睡眠慣性の対処法

目を覚ますためにコーヒーを飲む人


睡眠慣性の正確な原因はまだ特定されていませんが、多くの人が解消方法を探しています。身近な方法として、生活習慣を見直すことで睡眠慣性を軽減するための対策を取ることができます(Hilditch & McHill, 2019)。

短い昼寝をする

昼寝は、日中に不足した睡眠を補うのにとても有効です。ただし、短くシンプルに済ませることが大切です。研究によると、30分以上の昼寝は、夜の入眠が難しくなるだけでなく、睡眠慣性を引き起こしやすくなることが明らかになっています。次に仕事の休憩時間に昼寝をするときは、タイマーをセットして短時間で切り上げてみてはいかがでしょうか。適切な昼寝は、午後を元気に乗り切るために必要なリフレッシュになります。

カフェインを上手に活用する

コーヒーやエナジードリンクでカフェインを摂ると、脳内のアデノシン受容体がブロックされ、目が覚めて集中しやすくなる効果があります。まるでスイッチが入ったようにエネルギーが湧いてくる感覚を覚える人も多いでしょう。 ただし、カフェインを摂りすぎると不眠などの睡眠トラブルを招くことがあります。自分に合った量を見つけて、睡眠への影響をできるだけ抑えることが大切です。

光環境を整える

睡眠と覚醒のリズムを太陽の光のサイクルに合わせることで、睡眠慣性をやわらげられるといわれています。実際、人工の光は体内時計を乱し、眠りの質を下げてしまうことがあります。これを防ぐには、寝室に遮光カーテンを使って夜の光をコントロールするなど、環境を整えることが効果的です。

室温を調節する

昼寝のあと、目が覚めてもなんだかふらつく――そんな経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。実は、寝室の温度が高すぎると、このような状態が長引きやすいといわれています。体が十分に冷えないと、寝つきが悪くなり、慢性的な疲労感や既存の睡眠障害が悪化することがあります。静かな扇風機を使ったり、通気性の良い軽い寝具に替えたりして、体温調節を助けましょう。夏に暑い場合は、小型のエアコンや軽いパジャマを用意するのも有効です。

穏やかに目覚める

大きくて耳障りなアラーム音は、余計にぼんやり感や混乱を引き起こしやすくなります。そんなときに便利なのが、スマートアラームアプリです。睡眠パターンをモニタリングし、浅い眠りのタイミングで優しく起こしてくれるので、睡眠慣性を和らげ、すっきりした朝を迎えることができます。

まとめ

睡眠慣性は、気持ちよく一日を始めることを難しくしてしまう原因のひとつです。

朝起きたときに頭がぼんやりしてうまく働かないと感じたことがあるなら、それはまさに睡眠慣性の影響かもしれません。この状態は数時間続くこともあり、なかなか行動を始められないこともあります。 けれども、こうした悩みを抱えているのはあなただけではありません。コーヒーを飲む、軽く体を動かすなど、科学的に効果が確認されている対策もあります。いくつか試してみて、自分に合った方法を見つけてみてください。

そして、ナイトリーアプリを使えば、睡眠慣性をやさしく整え、すっきりとした朝を迎えることができます。眠気に悩まされる朝から卒業して、気持ちのいい一日をスタートしましょう!


テーマ
参照
      Burke, T. M., Scheer, F. A. J. L., Ronda, J. M., Czeisler, C. A., & Wright, K. P., Jr (2015). Sleep inertia, sleep homeostatic and circadian influences on higher-order cognitive functions. Journal of sleep research, 24(4), 364–371.
      Hilditch, C. J., Dorrian, J., & Banks, S. (2016). Time to wake up: reactive countermeasures to sleep inertia. Industrial health, 54(6), 528–541.
      Hilditch, C. J., & McHill, A. W. (2019). Sleep inertia: current insights. Nature and science of sleep, 11, 155–165.
      Basner, M., Dinges, D. F., Shea, J. A., Small, D. S., Zhu, J., Norton, L., Ecker, A. J., Novak, C., Bellini, L. M., & Volpp, K. G. (2017). Sleep and Alertness in Medical Interns and Residents: An Observational Study on the Role of Extended Shifts. Sleep, 40(4), zsx027.
      Job Flexibilities and Work Schedules Summary. (2019). Bureau of Labor Statistics.
      Marzano, C., Ferrara, M., Moroni, F., & De Gennaro, L. (2011). Electroencephalographic sleep inertia of the awakening brain. Neuroscience, 176, 308–317.
      Van Dongen, H. P., Price, N. J., Mullington, J. M., Szuba, M. P., Kapoor, S. C., & Dinges, D. F. (2001). Caffeine eliminates psychomotor vigilance deficits from sleep inertia. Sleep, 24(7), 813–819.
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      Lillehei, A. S., & Halcon, L. L. (2014). A systematic review of the effect of inhaled essential oils on sleep. Journal of alternative and complementary medicine (New York, N.Y.), 20(6), 441–451.
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