実際には存在しないはずのものが見えたり、音が聞こえたりする――そんな不思議な感覚を経験したことがある人は、決して少なくありません。こうした一瞬の影や奇妙な音は「睡眠時幻覚」と呼ばれ、思っている以上に多くの人に起こる身近な現象です。
入眠時幻覚とは、眠りに入る直前に生じる幻覚で、実際には存在しないものが見えるといった体験を指します。調査によると、約40%の人がこの現象を経験したことがあると報告されています。入眠時幻覚はナルコレプシーの代表的な症状として知られていますが、特定の疾患がなくても、誰にでも起こりうる現象です(Cheyne ほか, 1999)。このような幻覚と、精神疾患に関連する幻覚との違いを理解することは、自身の体験を正しく捉えるうえで重要です。
本記事では、入眠時幻覚の特徴について解説するとともに、その予防に役立つポイントを紹介します。
睡眠時幻覚とは?

夜中にふと目が覚めたとき、確かにそこに何かが見えたのに、明かりをつけた瞬間に消えてしまった――そんな経験をしたことはありませんか。こうした体験は「睡眠時幻覚」と呼ばれ、非常にリアルで現実と区別がつきにくいイメージや出来事を伴う、睡眠時随伴症(パラソムニア)の一種です。
睡眠時幻覚の多くは視覚に関するものですが、触れられる感覚や味、体が動いているように感じるなど、複数の感覚を伴うこともあります。そのため、目が覚めているのか眠っているのか分からず、戸惑いを感じる場合も少なくありません。悪夢と混同されることもありますが、夢であると認識でき、現実の出来事とは区別される点が異なります(Cheyne ほか, 1999)。
睡眠時幻覚は、内容によっては恐怖を伴うことがあります。とくに人や動物の姿が見える場合、その印象が強く残ることもあります。目が覚めているという自覚があっても、映像があまりに鮮明なため、不安や違和感を覚えることがあります。
睡眠時幻覚は、主に次の2つのタイミングで起こります。
- 眠りに入る直前
- 目が覚めた直後
これらの症状が日中にも起こる場合、ナルコレプシーの可能性が示唆されることがあります。また、状況によっては睡眠麻痺(いわゆる金縛り)を伴うこともあります。
そのほか、夢遊病や寝言といった別の睡眠時随伴症が同時にみられる場合もあります。
入眠時幻覚の原因とは?

入眠時幻覚は興味深い現象ですが、その正確な原因については、いまだ完全には解明されていません。ただし、日中に起こる幻覚や夢といくつかの共通点をもつことは分かっています。かつては、入眠時幻覚はレム睡眠の状態が覚醒時に入り込むことで生じると考えられていました。しかし、現在の研究では、この仮説を支持する十分な証拠は示されていません。
入眠時幻覚は、多くの場合、健康上大きな問題を引き起こすものではありません。ただし、睡眠障害がある人や、特定の健康状態を抱えている人では、比較的起こりやすいことが知られています。たとえば、ナルコレプシー、不眠症、日中の強い眠気、精神的な不調を抱える人では、入眠時幻覚を経験する割合が高いと報告されています(Denis ほか, 2018)。
また、慢性的な睡眠不足によって幻覚が生じる場合もあり、その一例として睡眠剥奪性精神病が知られています。ただし、入眠時幻覚が単独でみられる場合、必ずしも疾患を意味するわけではありません。
睡眠時幻覚を示すサインとは?

入眠時幻覚は、睡眠の過程の中で誰にでも起こりうるものですが、それが何であるかを正しく理解している人は多くありません。入眠時幻覚には、次のような特徴がみられることがあります。
視覚的な入眠時幻覚
視覚的な入眠時幻覚は比較的よくみられるもので、色や形が見えたり、何かが動いているように感じたりします。こうした現象は夢とは異なり、眠りに入る過程で自然に起こる一時的なものです。はっきりした物語や場面があるわけではなく、断片的な色や形、動きだけが現れることが多いとされています。その鮮明さに驚くことはあっても、脳の働きによって生じる現象のひとつと考えられています。
入眠時幻覚そのものには、物語や明確な展開が伴わないことが多いものの、体験した人の多くは強く印象に残るものとして語っています。睡眠時幻覚は、脳の働きの奥深さや複雑さを感じさせる現象の一例と言えるでしょう。
聴覚的な入眠時幻覚
人は眠りに入る過程で、音に関する幻覚を経験することがあります。たとえば電話の着信音や身近な人の声など、外から音がしていないにもかかわらず、実際に聞こえたように感じられる場合があります。
このような聴覚的な入眠時幻覚には、はっきりとした文脈や物語がないという特徴があります。断片的な音だけがふと現れ、雑踏や街中の環境音のように感じられることも少なくありません(E. Scammell, n.d.)。
感じ方には個人差があり、違和感を覚える人もいれば、強く印象に残る人もいます。ただ、いずれも脳の働きによって生じる現象の一つと考えられています。聴覚的な入眠時幻覚は、脳と睡眠の関係がいかに複雑であるかを示す一例と言えるでしょう。
感覚性の睡眠時幻覚
入眠の過程で、落下するように感じて突然目が覚めることがあります。実際に身体が動いているわけではありませんが、このような感覚は睡眠麻痺に伴う幻覚の一種とされ、眠りに移行する段階で生じることがあります。また、周囲に誰かがいるように感じるにもかかわらず、実際には人影がないといった体験も、感覚性の入眠時幻覚の一例とされています(Hallucinations: MedlinePlus Medical Encyclopedia, 2013)。
これらの幻覚は、レム睡眠中に一時的な身体の麻痺が起こる睡眠麻痺と同時に現れる場合が少なくありません。そのため、体験時に恐怖や不安を伴うこともあります。
不安を伴うこともあるこれらの幻覚ですが、決して珍しいものではありません。研究によると、入眠期と呼ばれる感受性の高い状態において、脳が感覚情報を誤って処理することが主な要因と考えられています(National Institute of Mental Health, 2020)。
入眠時幻覚を防ぐ方法

睡眠は、心と体の健康を保つために欠かせないものです。しかし、十分に眠れていない状態が続くと、さまざまな不調が現れることがあります。その一つが、目覚めから眠りへ移るタイミングで生じる入眠時幻覚です。鮮明なイメージを伴い、不安を感じる場合もありますが、日常の工夫によって起こりにくくすることが可能です。
- 良い睡眠習慣を保つ
- 毎日できるだけ同じ時間に寝て、同じ時間に起きるよう心がけましょう。
- 寝室は暗く、涼しく、静かな環境に整え、眠りやすい状態をつくることが大切です。
- 就寝前の刺激を避ける
- 寝前はスマートフォンやタブレット、テレビの使用を控え、ブルーライトの影響を減らしましょう。
- 夕方以降のカフェイン、アルコール、ニコチンの摂取もできるだけ避けましょう。
- リラックスする習慣を取り入れる
- 就寝前に、瞑想や深呼吸、軽いヨガなど、緊張を和らげる行動を取り入れてみましょう。
- 落ち着いた音楽を聴いたり、ホワイトノイズを活用したりするのも効果的です。
- 体調や睡眠の状態を見直す
- 睡眠時幻覚が頻繁に続く場合は、睡眠障害や精神的な不調が関係している可能性もあるため、専門家への相談を検討しましょう。
- 不眠症やナルコレプシー、不安障害などがある場合は、医師の指示や治療方針に従うことが重要です。
- 就寝前のルーティンをつくる
- 眠る前に心身が落ち着く習慣を取り入れ、「そろそろ休む時間だ」と体に伝えましょう。
- 読書をしたり、ぬるめのお風呂に入ったり、軽いストレッチを行うのも効果的です。
- 睡眠環境を整える
- 遮光カーテンを使って光を遮り、寝室の温度を快適に保つようにしましょう。
- 体に合ったマットレスや枕を選ぶことも、質の高い睡眠につながります。
これらの習慣を続けることで、睡眠の質が整い、入眠時幻覚も起こりにくくなることがあります。改善が見られない場合は、専門家に相談することも一つの選択肢です。
睡眠時幻覚と悪夢の違いとは?
睡眠中の脳の働きには、いまだ解明されていない点が多く残されています。夢については広く知られていますが、入眠直前の段階で幻覚が生じることについては、あまり認識されていないのが現状です。いわゆる入眠時幻覚は、悪夢と混同されることがありますが、両者は異なる現象とされています(Denis ほか, 2018)。
いずれも睡眠中に起こり、鮮明なイメージや強い印象を伴う点では共通しています。しかし、その発生過程や体験の性質には、明確な違いが存在します。
- 悪夢とは、恐怖を伴う夢のことで、目が覚めたあとも内容をはっきりと思い出せる点が特徴です。
- 入眠時幻覚は、動きのある映像が断続的に現れる現象で、音や身体感覚を伴う場合もありますが、必ずしも恐怖を伴うとは限りません。
睡眠剥奪性精神病や睡眠時幻覚は、不安や違和感を伴うことがありますが、いずれも睡眠の段階に応じた脳の働きによって生じる現象と考えられています。一方で、悪夢が繰り返し起こる場合は、単なる嫌な夢とは異なり、背景に何らかの要因が関係していることもあります。成人では、PTSDや精神的な不調、特定の薬剤の影響、睡眠障害などが、悪夢の頻発と関連していることが報告されています(Ohayon ほか, 1996)。
悪夢は強い恐怖を伴う体験ですが、入眠時幻覚や睡眠麻痺も、それ自体が恐怖を感じさせることがあります。これらは本来別の現象ですが、同時に起こることも多く、その結果、悪夢のように感じられる場合があります。
睡眠麻痺では、目は覚めている感覚がある一方で、体が動かせない状態になることがあります。その際、音が聞こえたり、誰かが近くにいるように感じたり、胸を圧迫されるような感覚を伴うこともあります。こうした現象が眠りに入る途中で生じた場合、入眠時幻覚として扱われます。
睡眠時幻覚の治療方法
入眠時幻覚は、適切な対応を行うことで改善が期待できる症状です。まず重要なのは、睡眠障害や身体的・精神的な不調など、背景にある要因を特定し、それらに対処することです。原因に応じた治療や生活習慣の調整を行うことで、症状の頻度や程度は次第に軽減していくと考えられています。全米睡眠財団(National Sleep Foundation)でも、日常生活の見直しが有効であると示されています。
年齢別の推奨睡眠時間
13〜18歳:8〜10時間 18〜64歳:7〜9時間 65歳以上:7〜8時間
また、日常の過ごし方を見直すことも、入眠時幻覚を軽減するうえで役立つとされています。
- 考え事が多い場合は、眠気を感じてから寝床につく
- 毎日なるべく同じ時間に寝起きし、生活リズムを整える
- 静かで落ち着いた環境を整え、眠りやすい状態を保つ
- アルコールや薬物の使用には注意し、入眠時幻覚を引き起こす可能性のある薬については慎重に扱う
※処方薬を服用している場合は、自己判断で中断や変更をせず、必ず医師に相談してください(Pagel, 2000)
まとめ
睡眠は心身の働きを保つうえで重要ですが、不足した状態が続くと、思いがけない症状が現れることがあります。その一つが、睡眠不足に関連して生じる睡眠時幻覚です。これらは非常に鮮明に感じられることがありますが、外的な刺激によるものではなく、疲労した脳の働きによって起こる現象と考えられています。
実際には存在しないものを見たり感じたりする体験は、不安を招くこともありますが、決して珍しいものではありません。重度の睡眠不足状態にある人の約80%が、これまでに同様の幻覚を経験したことがあると報告されています。
対処の基本は、十分な睡眠を確保することです。加えて、生活習慣を見直すことで、こうした症状が起こりにくくなる場合もあります。
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